意匠の有効利用 | 特許申請・出願の無料相談|至誠(しせい)国際特許事務所

意匠の有効利用

意匠制度について

日本の意匠制度の充実度は世界一といえます。
日本の意匠制度は100年以上の歴史があります。
世界の国々の意匠制度は、日本のように登録前の審査を行う国と、現在のEU、中国のように無審査の国とがあります。また、米国や中国のように特許制度の一部になっている国もあります。

日本の場合には、特許とは独立した独自の意匠制度を持っており、登録前にしっかりとした実体的な審査を行っており、このような国で日本ほど長い歴史のある国は他にはありません。

このように非常に充実している日本の意匠制度ですが、特許が年間40万件出願されているのに比して、意匠は3万件と非常に少ない利用率です。意匠は特許と商標の間に挟まれたニッチな制度ともいえます。

一般に、「意匠は『物品のデザイン』そのものの保護なので、特許等に比して権利範囲が狭いので、登録してもあまり有効ではない」ということがよく言われます。
これは一面そのとおりですが、一方で、意匠の審査は外国文献までよく調査して判断されることから、一度登録になると権利の安定度は非常に高く、無効審判で無効になる可能性は非常に低い、というメリットもあります。

有効利用について

では、このような意匠制度はどのように利用するのが有効なのかを考えてみましょう。
結論から言うと、意匠はある製品のデザインをひとつだけ登録してもあまり意味がありません。
理由は、上記のように権利範囲の幅が狭いからです。意匠の権利は、登録した意匠のみならず類似範囲にも及びます(意匠法23条)が、やはり、権利幅は特許等の「文字で表した概念としての権利」には及ばず、特許等に比べた場合には、確かに狭い権利です。

ところで、製品のデザインを行う場合には、デザイナーの頭の中では複数のデザインの変形例が創作時に同時に複数成立するのが通常です。
従って、もし、複数のデザイン変形例が成立している場合には、変形例の中核となる基本デザインと、

デザインの変形例であって、基本デザインからは距離はあるが基本デザインに類似する例を登録し、その登録の間に位置する侵害例を権利範囲に収めるような権利の保護範囲の作り方が有効です。
従って、意匠の場合には、単品の権利ではなく、あくまでも類似範囲を明確に主張するための複数の権利の取得方法が有効です。このような手法による登録は「関連意匠制度」を利用することによって行います。

従って、この関連意匠制度をうまく利用することが有効な保護を得るコツといえます。
もちろん、複数の登録を取るためかかる費用は一件の登録をとる場合よりも大きくなりますが、本来1件にかかる費用は特許の約1/3程度ですから、以下に述べる権利侵害判断の有効性を考慮した場合、特許よりも意匠で権利をおさえておく方が有効な場合もあります。
上記のような権利が取れれば、逆に、特許等に比して非常に他人の侵害の事態には強い権利が成立します。

特許の場合には、権利範囲は抽象的であることから意匠に比して広く及ぼせる可能性はありますが、権利としての抽象性の故に、他人の侵害技術が権利範囲に入るか否か、の判定が困難な事態が往々に生じます。従って、特許侵害訴訟においては、公判の前半部である「侵害論」に非常に時間が割かれます。

しかしながら、意匠の場合には一見して、「権利範囲に入るか否か」、即ち「似ているか否か」の判断ができるため、侵害者は「侵害ではない」という主張はしにくく、侵害か否かの判断は非常に容易となり、侵害論の議論を早期に終わらせることができます。

さらに、上記のような関連意匠制度を利用し、自己の登録意匠の類似範囲を複数の類似する登録意匠により明確に示している場合には、侵害か否かの判断をさらに迅速に行うことができるため、「侵害論」に割かれる時間を可及的に短縮することができ、非常に容易に侵害者に対する対抗措置をとることができます。

部分意匠制度の有効利用

次に、「部分意匠制度」を有効に利用することが有効です。
部分意匠制度は 年の法改正で意匠法に導入されました。
「部分意匠制度」とは、物品の一部分のデザインを保護する制度です。
意匠は物品の外観であることから、一の物品には一つの意匠が成立します。従って、従来は物品の部分は意匠とは認められていませんでした。

この制度は、本来は非常に政策的な観点から導入された制度です。

即ち、導入の目的は、中国を中心としたアジア諸国での日本製品の模倣をより有効に排除するためです。

即ち、近年のアジア諸国における模倣は、以前のいわゆるデッドコピーではなく、日本製品の主要部のみを真似し、その他の部分を別個のデザインにする、という手法が多くなっております。例えば、一時期、欧州のモーターショウで指摘された、部分的にはコピーであるが全体としては似ていない、という手法です。このような模倣品を要部が似ている場合に排除できるようにするために特許庁が導入したのが「部分意匠制度」です。

しかしながら、現在、このような制度導入の趣旨とは異なった観点から利用されており、利用件数は多いと思われます。

部分意匠制度の利用される場合

どのような事態で部分意匠制度を利用するか、といえば、例えば、以下のような事態が考えられます。

ⅰ:物品全体としては新しいデザインではないが、部分的なデザインが新しい場合。

ⅱ:複数のデザインで複数の意匠に共通部分がある場合には、当該共通部分のみを登録することにより、変化する部分が全体としての印象に影響を与えない範囲であれば権利範囲が及ぶ可能性あり。

上記ⅱのような事態においては、出願件数を少なくしてコストを押さえ、かつ、有効な保護範囲を確保できる可能性があります。
実際のところ、未だ、部分意匠の紛争事件で裁判所での判決が出てはいないことから、ⅱのような考え方が確実に成立するか否かは不明ですが、特許庁はこのような可能性を示唆しているものと考えられます。なお、登録時における類否判断で及び権利侵害での類否判断では、当該部分のみならず、当該部分以外の部分の形態も勘案して類比判断(権利判断)がなされます。
外国では、米国・EU・韓国には部分意匠制度があります。一方、中国・台湾には部分意匠制度はありません。
以上のように、意匠制度は使い方によっては非常に有効な保護手段となります。登録に要する費用は特許の約1/3ですし、登録までの期間は約8ヶ月で特許の約1/6です。事前の調査さえしっかりと行えば、拒絶通知が出る可能性は低く、また、権利の有効性も高くなります。

現在、日本の産業界が意匠制度を有効に利用しているとはいい難く、特に、中小企業の方々は意匠制度を有効に活用されることをお薦めします。

著者

所長弁理士 木村高明

所長弁理士 木村高明

所長弁理士

専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。

製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。


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