実用新案についてのここだけの話―中小零細企業(SMEs)に最適!上手く使いましょう― | 特許申請・出願の無料相談|至誠(しせい)国際特許事務所
         

実用新案についてのここだけの話―中小零細企業(SMEs)に最適!上手く使いましょう―

実用新案についてのここだけのお話 ―中小零細企業(SMEs)に最適!上手く使いましょう―

1.実用新案制度とは?

 実用新案制度は、ラフな言い方をすれば「出願すれば(実体的な審査なしに)登録になる」制度です。従って、特許の審査に慣れた方から見れば、「こんな制度は意味がない」という評価を受けがちになります。事実、そういう声は知財業界においてもあります。

 一方、実用新案制度は特許制度の弟のような存在です。特許制度は産業界に非常によく使われており、年間の出願件数は30万件前後ですが、実用新案制度は、あまり使われておらず、年間9000件程度で、大企業はまず利用しません。

また、世界的にみても、実用新案制度のある国は、限られており。例えば、中国、韓国にはあり、米国にはありません。

 しかし、当所は、実用新案制度こそ中小零細企業(SMEs)に最適な知財制度である、と考えており、積極的に利用をお勧めしております。この理由は以下に述べていきます。まずは、制度の内容を特許との対比でご紹介します。

2.実用新案制度の内容

  • (1)保護対象(どんなものが保護される?)

 簡単に言えば「小発明」です。それも「物品の形状、構造、組み合わせに関する考案(物品の形態に関する技術的アイデア)」です(実用新案法第3条柱書)。よく、家庭の主婦が下着等の日用品の工夫を実用新案で登録し、一儲けした、というような記事が新聞に載ることがあります。このように「日用品の改良アイデア」を保護しようとしているのが実用新案制度です。但し、「物品の形状等に関するアイデア」なので「形状、構造、組み合わせ」として把握できなければ保護されません。

 従って、特許で保護される「方法の発明(アイデア)」は実用新案では保護されません。また、「形状、構造」の要素で把握されない、例えば、新規の化学物質のようなものは保護されません。また、「小発明」保護が制度趣旨なのですが、特許の発明で実用新案法の保護対象として捉えられるものであれば、実用新案で保護されます。この理由は以下で説明します。

  • (2)登録までの期間・権利の内容・費用・有効期間(特許よりも権利は弱い?)

 それでは、「実用新案権は特許権よりも弱いか」というと、そんなことはありません。有効な実用新案権の強さは特許と同じで、権利侵害には断固した対応ができ(製造、販売等の禁止)、警告により解決できなければ訴訟を提起して戦うこともできます。

但し、有効期間(権利存続期間)は特許の半分で10年です。また、登録までにかかる費用は、特許のほぼ1/3程度です。また、特許では出願人の方が苦労をされる「審査」がありません。その結果、特許の場合、通常、短くても2年~3年かかるところ、現状、約3ヶ月で登録になります。

従って、もし、10年のマーケット独占で十分、という場合には、「権利化までの時間が短く、権利化費用は低額で、利用の仕方によっては有効にマーケットをコントロールできる」非常にお買い得感の強い権利である、ということになります。また、そのような利用の仕方ができる制度である、といえます。

 また、特許の審査にチャレンジした場合、進歩性のハードルをクリアできるか否か、拒絶通知の攻撃の中で、審査官を説得できるか否か、は、仮に、調査を行ったとしても、なかなか、確実な判断はできない場合もあります。このような場合で、審査、審判と特許取得にチャレンジしても、最終的に特許にならない、という場合もありえます。当所でもこのような事例を過去、経験しております。

このような悲劇を回避するためにも、「この発明は特許でチャレンジするには少々、進歩性のハードルを越えるので苦労する可能性がある」という場合には、柔軟にご判断いただき、実用新案で登録することも考慮に入れることをお勧めします。

さらに、「ある物品の形に特徴があるアイデア」というような場合に、意匠登録にするか、実用新案登録にするか迷う、というご相談を受ける場合があります。このような場合、当所では、(何らかの技術的効果が生まれる形態であれば)実用新案登録をお勧めしております。理由は、意匠権の権利範囲の狭さから生ずる侵害対応の困難性、権利化までの期間の長さを根拠としております。従って、このような観点からも、実用新案制度は非常に便利に、フレキシブルに(中小零細企業[SMEs]が)利用できる制度なのです。

  • (3)実用新案の審査(全くの無審査?)

 実用新案制度は「無審査制度」ですが、「全くの無審査」ではありません。登録前に方式的な審査(保護対象及び請求範囲の記載に関する審査)はあり、審査の結果、方式補正指令が発せられ、出願人は書面で応答することができます。

ここでいう「無審査」とは、「方式以外の、特許のような新規性、進歩性に関する実体的な審査は行わない」ということであり、必用な場合に「事後的な審査」をする制度になっています。これを「技術評価制度」といいます(実用新案法第12条)。

実用新案制度は非常に割り切った制度になっており、「ともかく権利設定を早期に行い、何か問題がある時には後で審査をする」という思想に基づいております。これは、現状の特許が認められるまでにどうしても審査に時間がかかることを考えれば、非常に良好な制度設計です。

実用新案の審査(技術評価)においても、特許の場合と同様のハードル(登録されるために必要な要件)が設けられており、「新規性」と「進歩性」が求められます。実用新案は特許の弟分なのですが、このハードルの高さは特許と変わりません。従って、有効と具備しているか否か、が審査されます。

従って、結果的に、特許審査の場合と同様の評価を特許庁からされることになることから、実用新案の権利の強さは特許と変わらないのです。また、そうであるがゆえに、特許と実用新案との間では相互に出願の変更(乗り換え)ができます(10条)。

 技術評価制度は、言ってみれば、「実用新案登録の成績表」のようなものです。評価は点数制で、満点が6点(新規性、進歩性がある場合)、最低点が1点(新規性がない場合)、2点(新規性はあるが進歩性がない場合)、3点~5点は先顔登録が存在する場合、という理由になっています。

 どんな場合に「技術評価」を行うか、といえば、最も一般的なのは、権利者が侵害の事実を把握し、所有している実用新案権を行使したい、というような場合(実用新案権者が陰会社に警告をする場合には、技術評価書を添付する必要があります)や、他人が所有している実用新案登録の権利の価値を知りたい、というような場合です。

 技術評価は特許庁に対して、権利者自身又は第三者が広く行うことができ、概ね4ヵ月程度で審査官による審査が行われ、「技術評価書」が発行されます。

3.実用新案制度の使い方(6点以外の評価の場合どうする?)

 技術評価書により6点であった場合には、その実用新案権は非常に強力で、特許権と何ら遜色がなく、堂々と侵害者に対して警告書を発することができますし、さらに侵害訴訟を提起することもできます。

 一方、1点の場合には新規性がないという評価ですから、この場合には、実体のない形式的な登録という評価になります。実用新案制度を使いこなす場合には、この事態は避ける必要があります。これは、実用新案登録出願を行う前に「特許調査」を行うことにより、新規性をクリアしているか否かをチェックし、新規性をクリアしている場合にのみ出願するということを徹底すれば(所定の費用をかけたにもかかわらず)評価1の事態を避けられます。この点からも、実用新案登録の場合であっても、事前調査が重要であることがわかります。

 問題は「評価2」の場合です。即ち、「新規性はあるが、進歩性はない(疑問である)」という場合をいかに考えるかです。現実に、技術評価を請求した場合、この「評価2」の場合が圧倒的に多いのです。これは特許出願に対する拒絶理由通知で最も多いのが「進歩性欠如」であることと同じです。

 特許庁は、特許の場合も同様ですが、審査では「進歩性」は容易には認めません。進歩性は原則否定される、と考えておいた方がよいといえます。逆にいえば、特許庁の審査官は進歩性を否定することが仕事である、といもえます。実は、この点には、深い意味があるのですがこの点のコメントは別項に譲ります。

 特許の場合には、拒絶理由通知に対しては、審査中なので意見書で反論ができます。しかし、実用新案の場合には、既に登録後ですので、この技術評価に対しては反論ができません。

ここが実用新案出願人のつらいところです。

 また、前提として留意すべきは、「技術評価」は「新規性、進歩性に関する特許庁の見解である」ということです。本当にその考案に新規性、進歩性があるか否か、については、裁判所で争い判決が確定して初めて最終的に分かるものである、ということです。

  • 4.「評価2」の実用新案登録をどう考えるか?

 実はここが実用新案制度を使う場合のポイントです。「評価2」ということは進歩性が欠如しているという評価であるので、特許審査実務の観点からすれば、瑕疵(キズ)のある可能性を持つ権利である、ということになります。従って、法的には(その権利の存在をきらう)第三者から無効審判により無効にされる可能性のある実用新案登録ともいえます。

それでは、このような「評価2」の登録は所有する意味のない権利でしょうか。答えは「否」です。意味のない権利を所有してもしょうがないのですが、このような実用新案登録は意味があります。

 即ち、先ずは、「評価2」であったとしても、法的には有効な実用新案登録ですから、存在する以上、実用新案権は存在しています。ということは、マーケットにおいて販売されている商品のタグ等に「実用新案登録済」という表記があった場合には、それのみで他人による模倣を抑止する「潜在的な抑止力」を有します。

また、仮に、当該実用新案登録が保護している商品を模倣したい(販売したい)という第三者がいて、技術評価請求により「評価2」であることを認識したとします。実用新案登録を無効にしたいと思った場合、進歩性欠如を理由とする実用新案登録無効審判を請求する他はありません。

この場合、無効審判請求は非常に専門的ですから弁理士に依頼することになると思われますが、この場合、全体で約100万円程度の費用と約8か月ほどの時間を要します。しかも、無効審判の勝率は一般に約3割程度です。さらに、無効審判の審決が出ても、権利者が不服申し立てを行い知財高裁に提訴した場合には、さらに費用と時間がかかることになります。

問題は、このような「後ろ向きの投資」をしてまたその商品を販売したい、と考えるかは疑問です。基本的には、ビジネスですから、費用対効果を必ず考えるはずです。従って、一般的には、実用新案登録をされるような商品に関し、このような展開はほとんどない、と考えられます。

とすれば、仮に「評価2」であったとしても、実用新案登録が存在する、ということはマーケットコントロールの観点からは非常に意味がある、といえます。ですから、実用新案登録は費用対効果の非常に大きな権利である、ということができます。

  • 5.その他

 当所では、中小零細企業(SMEs)顧客様の実用新案登録を多数行っていると共に、実用新案権に基づく侵害訴訟を原告側で行っており、実用新案登録及びその運用には多年の経験があります。

実用新案の明細書の作成は、基本的には特許と同様なのですが、特に、請求範囲の作成の仕方にノウハウがあります。請求範囲を特許と同じように作成すると、方式補正指令がかかる場合があり、これに応答することによりそれだけ権利化が遅れることとなります。完全に方式補正指令を回避することは困難なのですが、この点を注意して行う必要があります。

 また、実用新案権に基づく侵害訴訟での留意点は、特許の場合とは異なり、侵害の際の「過失の推定」がないこと、及び、権利行使の際に実用新案登録が無効になった場合には、侵害者に与えた損害の賠償責任が出てくる点です。

 このような点を差し引いても、実用新案制度はやはり中小零細企業(SMEs)の味方ですので、ご要望の際にはぜひご相談ください。

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著者

所長弁理士 木村高明

所長弁理士 木村高明

所長弁理士

専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。

製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。


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