弁理士が語る商標登録にまつわる本音情報 | 特許申請・出願の無料相談|至誠(しせい)国際特許事務所
         

弁理士が語る商標登録にまつわる本音情報

弁理士が語る商標登録にまつわる本音情報

(1)審査制度

 商標は特許庁へ登録申請(法的には「出願」といいます)することにより登録されますが、登録に至るまでに、厳しい審査があります。これを「審査主義」といい、「営業許可」、「道路の工事許可」のように、一定の条件を備えていれば必ず申請事項が許可される「許可制」とは異なります。

商標は出願すれば必ず登録される、というものではありません。従って、「商標登録」は特許庁の審査において「特許庁と戦って勝ち取る」覚悟が必要です。この戦いの同志となるのが特許事務所であり、弁理士です。

 特許庁の審査においては、以下に述べる「登録要件」の審査が厳格に行われ、充足しない場合には、商標登録を拒絶する通知である「拒絶理由通知」が発送され(商標法第15条-2)、これに対し、商標出願人側は意見書、補正書により反論ができます(同条)。この反論の場面では、商標法及び商法審査実務に基づいた法的な反論が必要となります。

従って、商標の出願から登録に至る手続は、基本的には弁理士、特許事務所の依頼し、任せた方が妥当といえます。特許出願の場合と異なり、作成書類が比較的簡単であることから、出願そのものは一般の方でもできないことはないのですが、下記に述べる「指定商品・指定役務」に関する記載が不十分な場合が非常に多く、後から修正(補正)はできない場合が多いので、「指定商品・指定役務」が権利範囲になる重要性を考慮すれば、出願時から弁理士、特許事務所に依頼することが望ましいといえます。

(2)商標を登録する商品・サービスの特定の重要性

 商標登録する場合には、先ず、上記の「商標」を決める必要があります。次に、どのような商品又はサービスについてその商標を登録したいのかを決める必要があります。これを、商標法上「指定商品・指定役務(サービス)」といいます(商標法第3条柱書)。

従って、商標登録、商標権は、自社が保護したい商標と、その商標を使用した商品又はサービスとの関係で紐づけられて登録され、その関係に対して商標権が発生します。

 逆にいえば、他者が使用する商標が自社のものと似ていても、使用する商品、サービスが異なる場合には、商標権が及ばないことになります。

従って、どのような商品、サービスに自社の商標を登録するか、は非常に重要な問題です。この観点から、出願の際には、弁理士と貴社との間で、この指定商品、指定役務をどのように設定するか、についての徹底したディスカッションを行うことをお勧めします。

 「指定商品・指定役務」は、特許庁が世の中に存在する多数の商品、サービスを45の区分に分類した「商品・役務区分」という概念を作っており、この区分に基づいて、自社が商標を登録したい商品・役務を指定して出願することになります。

 これは、商標を登録するために出願する際に決定する事項ですが、「商品・役務区分」を出願後に新たに追加することはできませんので、弁理士、特許事務所との間の綿密な打ち合わせが必要です。

(3)登録要件:商標を登録するために越えなければならない2つのハードル:

大まかに言って、2つのハードルを越える必要があります。

  • ⅰ「商標として機能すること」 

第一のハードルを「自他商品識別機能」といいます(商標法第3条第1項各号)

 例えば、その商品の普通名称(商品「パーソナルコンピュータ」に対して「パソコン」)、慣用商標(商品「清酒」に対して「正宗」)、商品の説明的表示(商品「肉製品」に対して「炭焼き」)、ありふれた氏、名称(「佐藤商店」)、極めて簡単かつありふれた標章(「AB」)等は、そのように使用したとしても、マーケットにおいて「多くの人が使用している語であることから特定の誰の商品であると認識できない」ため、「自己の商品と他人の商品を区別する力がない」という観点から、登録にはなりません。 

 但し、要は「マーケットで自己の商品と他人の商品を識別できる力があるか否か」という観点からの評価であることから、マーケットでその商標を付けて大量に販売、展開し、マーケットにおいてコンシューマーにその商標を認めさせてしまった場合には、その立証により登録される場合もあります(商標法第3条第2項)。但し、相当程度の証拠が必要となります。

  • ⅱ「他人の権利・商標権とぶつからないこと」(商標法第4条第1項11号、10号、15号)

これが最も重要なハードルで、多くの出願人の方はこのハードルを越えるのにご苦労をされます。当然ながら、弁理士はこのハードルをいかに超えるか、に関する様々な法的ノウハウを以て、出願人を代理します。

 ここで重要な概念は「類似」です。過去にすでに登録されている商標には商標権が発生していますから、これと同一の商標を登録することは他人の権利を侵害し、取引秩序を乱すことになりますので、登録はされません。

但し、「同一」のみならず、その周辺領域である「類似」の範囲も登録されません。これは商標権が、出願された商標・商品・サービスと同一の範囲のみならず、類似の範囲にまで商標権を認めていることに起因します(商標法第25条)。

 問題は、「何が類似か」、「どの範囲までが類似か」です。ここが商標出願の最大の争点になり、この点に関する多数の審決例、判決例があります。また、弁理士の側でもいかにこの点に関する知識、ノウハウを持っているか、が勝負になります。

 また、商標は登録されていなくても、実際にマーケットで使用されて有名になっている場合があります。例えば、 のような場合です。この場合にも、登録はされていなくても、その有名商標(法的には「周知商標」といいます)には、「有名になって使用の結果財産的価値がある」点で既得権がありますので、その周知商標の所有者を守るために、他人の登録は排除されます。

 これらの点に関しては、なかなか審査の段階で反論が認められない場

合もあり、審査の「上級審」である「審判」まで戦いが継続する場合もあります。

  • ⅲ 公益性に反しないこと

 上記の他、公共機関のマーク(国旗、赤十字、国、公共団体)と同一、類似の商標、公序良俗に反する商標等は登録されません。

(4)商標調査の重要性

 上記のように特許庁は「審査主義」を採っています。

日本の審査主義の特徴は、2番目のハードルである「他人の権利(商標権)との抵触」までを判断する点です。

欧州の商標登録制度(「欧州連合商標・EUTM」と言います)は、第一のハードル(欧州制度では「絶対的拒絶理由」)のみを審査する制度と なっています。他人の先行商標登録との抵触に関しては登録後の「異議申立」があった場合にのみ意義の審査を経て審査するようになっています。従って、日本の審査制度は欧州よりもより徹底している、と言えます。

このような日本の審査制度では、二番目のハードルである「他人の商標権との抵触の有無」が最も深刻な登録拒絶の理由となっていることから、この点を出願前に判断しておくことが重要で、登録されないことが分かっている商標を出願することのないようにすることができ、出願貴社の費用の削減を削減することになります。従って、当所では、ご依頼されたお客様には、必ず、事前標調査をお勧めしております。

当所の調査では、「侵害予防の観点からの調査」(他人の商標権への侵害の可能性の有無)及び「商標登録の可能性の調査」の双方に関する調査を行います。「商標登録の可能性の調査」に関しては、第一のハードル(商標として機能するか:欧州でいう「絶対的拒絶理由」)及び第二のハードル(他人の先行する商標登録等との抵触はあるか)の双方に関し、過去の審決例、裁判例に基づき検討し、詳細な「調査報告書」をお客様に発行させていただいております。

この商標調査を行うことのメリットは、予め、現在存在する他人の商標権への侵害の可能性の判断ができること、及び、登録の可能性についてのアセスメントができる点にあり、これらの点から、使用予定の商標が侵害の可能性あり、又は登録可能性が低いという判断がなされた場合には、その時点で、弁理士、特許事務所とご相談の上で、他の商標を選択して使用及び登録にチャレンジすることができる点にあります。

今までのプラクティスでは、この出願前の「商標調査」を行うことにより、ご依頼いただいた商標案件に関しましては、高い登録率を維持しております。

(5)登録までの期間

上記のように特許庁において「商標登録を獲得する」作業は、即ち、特許庁に自社の商標を指定商品・役務との関係で登録を容認してもらうことですが、基本的に、特許庁の審査は非常に厳しいことから、それなり時間と費用がかかります。

令和3年現在、一般的には、出願から登録に至るまで8~13ヶ月ほどかかります。権利化を急ぎたい、という場合には、「早期審査」というやり方があり、出願から1~3ヶ月で審査結果(「拒絶理由通知」又は「登録査定」)が通知されます。また、「ファストトラック審査」というやり方もあり、この場合には出願から6ヶ月で審査結果が通知されます。

但し、商標の「早期審査」制度には、「事情により緊急性を要する」ことの主張、立証が必要であり、特許出願の場合ほど気軽に早期審査が容認されるものではありません。

(6)審査と審判(拒絶応答手続について)

 特許庁の審査の構造は、「審査段階」と「審判段階」の2段階構造になっており、審査で登録が容認されなかった場合には、審判で再度登録を主張して戦うことができるようになっております。

例えば、審査で登録を拒絶する「拒絶理由通知」が発送され、これに対し、補正書・意見書を提出して反論しても、残念ながら登録が認められない場合もあります。この事態の多くは、「本件商標は他人の先行する登録商標に類似しているので、他人の権利を害することから登録は認められない」という理由によります。この場合には、補正により「指定商品を減縮」して、抵触関係を解消することも行えますが、これも不可能な場合には、審査官の拒絶の意見に対して真正面から「類似していない」という反論を行うことになります。

この点に関しては、過去の多数の裁判例、審判例があることから、それらの先行例を参考にしつつ商標法律論、審査実務に基づき反論を行います。しかしながら、それでもなお、審査官に弁理士の反論が認められない場合もあります。このような場合には、「拒絶査定」になります。これは審査での否定的な最終結論です。

これに対しては、「拒絶査定不服審判」を請求して、審級を進めて審判段階に事件を持ち上げ、さらに戦うことができます。もちろん、審判費用が発生すると共に、審判での審理に時間を要することから(令和3年現在、審判請求から約9ヶ月)、できるだけ審査段階で登録されることが当然に望ましいのですが「拒絶査定」という事態もありうることは考慮しておく必要があります。

上記のように出願前の商標調査をていねいに行い、他人の権利との抵触を回避すべく商標出願を構築して出願しているにもかかわらず、なぜ、このような事態が発生するのか、という点が問題となりますが、商標の審査もやはり人間が行う作業なので、微妙な(特に、「商標の類似」に関する)判断に関しては、担当審査官の考え、思想(商標制度観、世界観、人生観等)が働きます。この事情は、裁判官により判決が異なる訴訟の場合と同様です。この場合、審査では当該商標出願を審査する審査官は1名であることから、(審判とは異なり)その審査官の考え方に支配されます。

 また、もう一つの要因として、この点は特許審査においても同様なのですが「審査は画一的、審判は個別具体的」という隠れた特許庁の方針があります。即ち、審査においては審査官は「商標審査基準」に基づき画一的に判断し「規則は規則、ダメなものはダメ」的なクールな判断がされがちです。この点は、「行政手続の(個別事件ごとの)安定性」を考えれば致し方ない、ともいえます。従って、審査段階での拒絶判断に対して、「裁判例ではこのような考え方をしている」旨の反論をしても、受け入れられない場合があります。このあたりが、審査での拒絶応答の難しさです。

しかしながら、審判では、3人のベテランの審判官により「審判合議体」が構成され、裁判に類似した手続により審査で拒絶された案件を再度審理します。この場合、当所の経験では、審判では「審判官面談」が非常に有効です。

元々、審判の審態度は「個別具体的な判断」がなされ、3人の審判官の「合議」により結論を出すものであることから、審査の場合よりもより客観的な判断がなされる可能性がある、と言え、さらに「面談」を行うことにより、ビジネスの背景の説明まで可能になることから、非常に丁寧に登録への道を示してくれる場合があります。

従って、基本的に、審査段階で登録されることが当然に望ましいのですが、仮に「拒絶査定」となった場合であって、もし、費用的、時間的に事情が許し、かつ「どうしてもその商標登録を獲得したい」という場合には、審判はチャレンジするに値する手続である、と言えます。

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著者

所長弁理士 木村高明

所長弁理士 木村高明

所長弁理士

専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。

製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。


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