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心に残る商標登録案件

心に残る商標登録案件

当所での中小零細企業(SMEs)顧客様からご依頼いただいた商標出願案件の中で心に残る案件として下記のようなものがあります。

1.「複数の簡単な語の結合商標」事件

本件は、指定商品は「皮革」であり、商標は、例えば、「スムーズデリケートレザー」というような「レザー」の資質を表記するような複数の語が形容詞として付いている語により構成された結合商標です。

特許庁の審査では、概ね、指定商品である「レザー」の品質を表しているに過ぎない、として商標法第3条第1項第3号違反を指摘してきました。これは、このような語を指定商品「皮革」に使用したとしても商標として機能しない(需要者等はマーケットでこの商法が付された皮革を区別できず、商取引に支障をきたす)という趣旨です。また、同時に4条1項16号違反も指摘してきておりました。これはこのような場合の特許庁の常とう手段です。

このような場合の弁理士側の反論としては「このような語は世の中に存在せず、使用もされていないことから、指定商品「皮革」に使用した場合でも商標として機能する、というロジックを使います。これをインターネットで検索した結果を提出し、「皮革商品に対してこのような商標は実際に使用されていない」旨を主張、立証しました。

しかし、残念ながら拒絶査定となりました。これに対し、出願人の意思は固く、審判請求に及びました。

審判では審判理由書において、審査での拒絶に対する反論を再度丁寧に主張すると共に、審判官面談を申請し、面談を行いました。「面談」は特許庁に赴いて、指定された庁内の部屋で1時間に亘り、本審判事件を担当する3人の審判官に対して登録の正当性を主張することができます。

ここが審判官面談の良いところなのですが、本件商標が使用されている実際の商品(財布、靴等)及び、商品説明書、パンフレット、広告等を持ち込んで審判官に見せ、これらマーケットで実際に流通している各種商材に基づきプレゼンを行いました。

その結果、審判官も、実際にこのような商標が使用された商品が流通過程において、需要者取引者に取引され、取引秩序が成立している、ということを実際に認識することができ、その結果、ほどなく商標登録が完了し、お客様を守ることができました。

当所の経験では、審査で登録を拒絶された商標事件に関し、審判請求した場合には、審判官面談を行うことにより、審査で拒絶されたほぼすべての商標が登録になっております。

この事実は、審査で拒絶されても、あきらめることなく戦えば、審判では、面談を介して個別具体的な事情を主張できるため、登録の可能性が大きくアップすることを示しております。

2.「ありふれた氏を特殊態様で表した商標」事件

 本件は、指定商品は「釣り具」であり、出願人は、釣り具メーカーでした。商標は創業者の氏を斜体字でかつ、特殊な態様で表しておりました。但し、日本人の氏として読め、視認できることから、審査では商標法第3条第1項第4号(ありふれた氏を普通に用いられる表示する標章のみからなる商標)に該当する」旨の拒絶理由通知が出ました。これに対し「商標の構成態様が特殊なので外観上、観る人に特殊な標記である旨の印象を与えることから、商標として他社製品と区別する力を有している」旨を主張して反論しましたが、審査では認められませんでした。この点からも、「審査では画一的な判断がされる」ということが理解できます。

 そこで出願人と相談の上、審判請求を行い、実際にその商標が使用されている商品カタログ、商品の包装、会社パンフレット等を提出し、「実際に、本件商標が商取引に使用され、現実に商標として機能している」点の理解を求めました。その結果、本事件では面談は行いませんでしたが、書面審理において商標登録が認めら、お客様を守ることができました。

 この事件でも、「審査は画一的な判断、審判は個別具体的な判断」がされていることを身をもって体感することとなりました。

3.「Cover/カバー商標事件」

 本件は、指定商品に対して「Cover/カバー」の標準文字からなる商標を出願しましたが、「『Cover』は『物を覆うもの、覆い』という意味があるので、商品の品質、用途を普通に用いられる方法で表示するので、商標法第3条第1項第3号に該当する」として拒絶通知を受けた案件です。

これに対し、「『Cover』という語は、一義的に『物を覆う、覆い』という意味ではなく、『損失を補う』、『含む』、『スポーツで味方選手の手薄になったところを補う』、『すでに発表になっている曲を別の演奏者が演奏する』等の意味もあるので、一義的に『物を覆う』という意味にはならない」という主張とすると共に、辞書の該当ページを証拠として提出して立証することにより、審査段階で登録査定となりました。

文字商標の識別力に関しては、その文字の意味するところ(観念)が非常に重要であることを再認識した案件でした。

 一般に、商標は、その商標の「外観」(どのように見えるか)、その商標の「称呼」(どのように発音するか)、その商標の「観念」(どのような意味内容か)の3つの観点から把握されます。従って、商標実務における永遠の課題である「商標の類似」の問題を議論する場合にも、この3つの観点から議論を行います。上記の2の案件では「文字商標を特殊な態様で表記した商標」であったことから、「特殊な外観」が登録のポイント(自他商品識別力の根拠)になりましたが、本件のように標準文字で通常の文字として記載されているような商標の場合には、「観念」の占める要素が大きいことを意味しております。

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著者

所長弁理士 木村高明

所長弁理士 木村高明

所長弁理士

専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。

製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。


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