紛争事件と「記載要件」 | 特許申請・出願の無料相談|至誠(しせい)国際特許事務所

紛争事件と「記載要件」

-登録無効審判・知財高裁の「記載要件」での攻防-

当所の顧客である中国のある中小企業は日本で実用新案登録を保有していたが、日本の大企業に対して特許害警告を行い、これに対し大企業側は当該実用新案登録に対し無効審判を請求した。無効理由は「請求範囲の記載要件違反」(実用新案法5条6項1号等)である。

無効請求理由は、「請求範囲には構成のみが記載されており、どのようにすれば機能、作用、効果が奏せられるかが不明であり、記載が明確ではないので違法である」というものであった。

本件実用新案登録は、フィットネス器具であって、「使用者の身体に微細な振動を与える振動機」であるが、実用新案登録の請求範囲には振動機の構成要素のみが記載され、その構成要素がどのように相互に協働してどのような振動を発生させるか、は記載されていなかった。しかしながら、明細書にはその点に関する詳細な記載があった。従って、明細書を参照することにより請求の範囲に記載された各構成要件の関係性は当業者であれば理解はできる。

 この点は、特許庁の「特許審査基準」及び過去の裁判所での判決にも「明細書及び技術常識を参照した場合に、明確に理解できるか否か、を明確性要件の判断基準にする」旨が記載されており、当方の主張はこれに基づいて展開し、特許庁、裁判所(知財高裁)において主張は容認された。但し、請求人側は控訴し最高裁まで争った。

 従って、本事件においては文法通りの反論で勝訴できたものであるが、最高裁判決まで多くの時間と多額の費用を要していることを考慮すれば、特許実務家としては、「請求範囲」に機能を記載してさえおけば、このような無効主張そのものを封じることができたものと考えられる。中小企業保護の観点からも、出願時における請求範囲の記載の重要性を認識する必要がある。

著者

所長弁理士 木村高明

所長弁理士 木村高明

所長弁理士

専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。

製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。

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