パリ条約とPCT

一出願で多数国への出願を可能にした方式統一条約
20世紀初頭におけるパリ条約の成立により、国際的知的財産保護の基礎は成立し、外国人の権利化国での権利化に伴う不利な取り扱いは法的には排除されが、出願人が権利化を希望する外国への出願は行わねばならないことから、各国別出願に要する出願人の負担は軽減されていない(パリ条約第2条)。
そこで、WIPOにより、この「各国別出願」に要する出願人の負担軽減等の観点から1970年に米国ワシントンでPCT条約が成立した。この条約はWIPOの前身であるBIRPI(知的所有権保護合同国際事務局)の時代から各国代表により議論され、WIPOの努力の成果として成立した特許の条約である。
PCTは、特許ハーモナイゼーションの観点からは、「方式的事項(出願手続、フォーマット等)を世界的に統一することにより各国別出願の負担を部分的に軽減しようとした」ものであり、「方式ハーモナイゼーション条約」である。但し、最終的には、各国での審査、権利化を行うことから、「属地主義」の原則は保持されている。
2021年現在のPCT締約国は153ヵ国である。WIPO加盟国が193ヵ国であることから、約8割のWIPO加盟国はPCT加盟国になっている。
PCTの理念は、一言で言えば、「一出願で多数国への出願を可能にした方式統一条約」といえる。その結果、出願人にとっては、統一的に条約で決められた出願書類フォーマットで、受理官庁として機能する各国特許庁へ特許出願書類を提出すれば、加盟国全体に出願した効果を発生させられる。パリ条約から見れば画期的な制度である。
また、出願から審査までを「国際段階」で行うシステムを創出し「属地主義」の限界を少しでも超えようとした点で、「国際特許保護」の観点からは非常に意欲的な条約である。PCTシステムは、国際的知的財産制度の中で、属地主義と国際主義との間で非常にバランスの取れた画期的な折衷的システムである、と言える。
著者

所長弁理士 木村高明
所長弁理士
専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。
製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。
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