補論:特許査定と判決文
日々、特許実務を行い、拒絶理由通知等の応答作業にいそしんでいる弁理士としては、現在の特許審査では、拒絶理由通知、拒絶査定に関しては、非常に詳細な審査官のコメント、見解が数ページにわたって記載されており、特許庁の審査官は、非常に丁寧に「出願に関し特許を拒絶する理由」を記載していただいている、という所感を持っています。
かつて、私が特許事務所で特許実務をスタートしたころ(ほぼ40年前)の拒絶理由通知は、拒絶の理由、適用条文、及び拒絶の証拠となる引用文献のみがほぼ一行で記載された、非常に簡素なもので、この傾向は出願人が中小企業の場合に、特に、そっけなく拒絶された。という感を強く受けたものです。場合によって根拠条文及び引用文献の記載のみということもありました。
従って、当時は、拒絶理由通知を読んでも、どの部分、どのような観点から拒絶されているのか、が明確には分からず、審査官の意図を推し量りながら、補正案、意見書案を考える、というものでした。
この「審査官の拒絶の意図を推測する」ことは、弁理士にとって拒絶応答作業のポイントで、現在もなおこの点は非常に重要な作業ですが、現在の審査実務では非常に丁寧に審査官の考えが表明されており、場合によっては特許への道筋を明確に示していた抱いている場合もありますが、当時は、審査官の考えを示す言葉がなかったことから、審査官の意図をくみ取るのに非常に苦労した記憶があります。
その時代からすると、特許庁の審査実務は、非常にユーザーフレンドリーになったといえます。確か、80年代に時の特許庁長官により提案され、実施された「特許庁親切運動」というのがあり、特許庁全体の出願人、代理人への対応が柔らかく、親切になったことを記憶しております。
それまでの特許庁の、審査官のみならず、事務部門の対応も非常に「上から目線」で。以下にも国家公務員の対応という感を受けておりました。
一方、「特許査定」の通知においては、今もなお、何ら根拠が記載されておらず、特許される場合に「どのような根拠(特に、進歩性の根拠)で特許性を認めたか」が開示されないので、「補正書、意見書によるどのような反論が功を奏したか」は、出願人側で推測する他はありません。
管轄省庁が異なり、制度趣旨、審理構造が異なるため、一概に対比は出来ないのですが、裁判では必ず判決が出て、判決文には、裁判合議体がどのように判断したかが詳細に記載されます。もちろん完全に全ての論点に裁判所の見解が詳細に示されるわけではないのですが、それでも、どのような論点をいかに判断して判決を出したのかが読めば分かります。
もちろん、裁判の場合には当事者対立構造のため、当事者の一方は判決に不服で上訴する可能性があるので、裁判所の結論を明確に示すことが必要であることは当然です。
しかしながら、「特許する場合の判断の根拠」の開示を特許査定において行っていただけると、審査の客観性が担保され、非常にユーザーフレンドリーになり、出願人の便宜が図られ、結果的に特許行政の円滑な進行に資するものと思うのですがいかがでしょうか。
特許お役立ち情報の最新記事
- 中小企業知財について
- 中小企業知財と知財意識
- 中小企業知財と紛争事件2
- 中小企業知財と紛争事件2
- 中小企業知財と紛争事件1
- 中小企業知財と発明の進歩性4:具体事例
- 中小企業知財と発明の進歩性3:具体事例
- 中小企業知財と発明の進歩性2
- 中小企業知財と発明の進歩性1
- 大企業知財と中小零細企業知財
- 初めて商標登録をされる方へ−商標のマストな基礎知識−
- −プロの弁理士が解説!−特許侵害紛争事件について
- <特許取得事例>「革新的被服技術案件」
- <特許取得事例>「AI利用地図作製技術案件」-審査段階における「オンライン審査官面談でのプレゼン」の成功例―
- <特許取得事例>「ストレス判定技術案件」―大学教授による先進技術発明·進歩性判定予測の難しさ―
- <特許取得事例>分割出願による特許ポートフォリオ―
- <特許取得事例>分割出願によらない特許ポートフォリオ―
- 初めて特許を取得する方へ −3つの条件をプロの弁理士が解説します−
- COVID-19と特許問題
- 国際段階を管轄するPCT制度
- 特許制度調和の歴史
- パリ条約とPCT
- 世界知的所有権機関(WIPO)と特許制度調和
- 世界の知的所有権の国連専門機関–WIPO–
- 特許要件・「進歩性」とは
- ★プロ弁理士が解説!日本の実用新案制度の紹介−自社のマーケットを守るために−
- 実用新案制度・中小企業には必須の制度
- PCT国際調査制度
- 特許審査について
- 事務所の実力が決まる!特許事務所の“パラリーガル”について
- 分割出願戦略・特許ポートフォリオ
- 実用新案制度(2)
- 特許審査と審判の関係
- 経験豊富な弁理士が解説-日本における「色彩(一色)のみの商標」の取扱-
- 弁護士と弁理士の関係
- 紛争事件と「記載要件」
- 中小零細企業と特許(知財)について
- 特許調査の概要・意義と特許調査のメリット
- 特許マップ(パテントマップ)の概要と意義
- 特許の請求の範囲と明細書の書き方
- 特許の無効審判とは?無効審判の意味と申請の流れ
- 特許出願・特許申請で必ず注意しなければならないポイント
- 特許にも有効期限・期間はある?申請時に意識しないといけないポイント
- 特許査定の概要と意義
- 特許申請の流れを教えてください!
- 特許年金とはいったい何?
- 特許の申請、どれくらい費用がかかるの?
- 特許の取り方の大まかな流れと注意するべきポイント
- 最新の特許法改正による影響は?
- 特許法の存在意義と必要なシーン
- 特許を扱うのに必要な資格とは
- 特許事務所の仕事と必要なスキル
- 特許翻訳の仕事と必要なスキル
- 特許庁と商標の関係
- 特許庁に採用されるために必要なこと
- 特許庁のお仕事と必要なスキル
- 特許に関わるお仕事の種類とは