分割出願戦略・特許ポートフォリオ

特許出願時には要注意!分割出願について
審査で、「最後の拒絶理由通知」又は「拒絶査定」を受けた場合、補正の内容的制限は非常に厳しく、応答に苦労する場合がある。そこで利用されるのが分割出願制度である(日本特許法第44条)。
「分割出願」は、要は「原出願の記載された発明を抜き出して新たな出願で権利化を図る」というものである。分割出願のメリットは、拒絶された場合(「最終拒絶」・「拒絶査定」を含む)に、一度、出願当初の内容に戻し、再度、仕切り直しをして権利化に向かうことや、争いたい発明事項に関しては原出願に残して意見書・補正書により反論し、争点とは切り離して別に権利化したい事項に関しては分割出願により別出願とする、ということが可能となる点にある。
「分割出願を成功させる」ことは、「遡及効を得る」ことである(特許法第44条第3項)。即ち、分割が適式に行われた場合には、「分割出願は原出願の時に行われた」ものとして、審査上、取り扱われる。不適式な分割でこの遡及効が得られない場合には、分割の現実の出願日の出願となり、原出願日の利益を享受できない。従って、ポイントは、いかに適式な分割と認めてもらうか、に係る。
この点に関しては、日本特許庁が発行する「特許審査基準」に詳細な規定がある。要約すると、ポイントは「分割出願の新たな請求項記載事項、必要に応じてなされた記載変更事項が、原出願の範囲内であることを明確に主張、立証する」ことに尽きる。これは本来、「分割は補正の一態様である」という考え方から派生している。当然のことながら、原出願の開示範囲を超えて分割出願を行うことは、新規事項追加補正と同様に特許制度の趣旨に反する。
日本特許法の手続としては、分割は「補正のできる時又は時期に行う」ことが原則であるが(特許法第44条)、改正によりこれ以外の時期でも分割可能である。問題は提出書類であるが、ポイントは分割出願明細書の作り方と、審査基準で提出が義務付けられている「上申書」の作成の仕方である。
結論からいえば、分割明細書には、分割事項のみを記載し、分割事項に伴う補正事項に関しては、別途補正書で提出するのが適当と思われる。補正事項も補正書によらず分割明細書に記載する方法もあるが、分割事項及び補正事項には常に「新規事項追加」の規制が加わることから、分割に基づく補正事項が新規事項と認定された場合には、分割の要件の適否判断への影響が及び、場合によっては分割の要件が認められず、遡及効が得られないことにもなりかねない。従って、このようなやりかたを推奨する。
また、「多世代分割」も可能である。「多世代分割」とは分割出願をさらに複数回に亘り分割するものであるが、審査基準には、「ある出願を分割し、さらに分割した場合、2世代に亘る分割が成立」する旨の規定がある。この場合、原出願と第一世代分割出願との間、第二世代と第三世代との間で分割の要件が具備されている場合には、第三世代分割出願は原出願の出願日まで遡及する旨記載されている。
分割戦略は自社の技術を多数の特許で守るための「特許のポートフォリオ」形成には非常に有効である。そのためには、当然のことながら、戦略的に原出願の明細書記載事項を充実させ、競合他社の出願同行を確認しながら分割事項をあらかじめ抽出して準備しておくことが重要である。
著者

所長弁理士 木村高明
所長弁理士
専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。
製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。
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