特許制度調和の歴史
パリ条約とPCT
「各国特許制度の制度調和」のトレンドのスタートは「パリ条約」である。この条約は20世紀初頭に成立し、その後、改正会議を何度も重ねて現在の姿に至っている歴史的な条約であり、現在もなお知財の国際的保護の基礎を形成している条約である。
パリ条約には30条の規定がある。この内、産業財産権保護に関する規定は1条~11条までであり、簡潔な条約法ではあるが、非常に中身が濃い内容となっている。
パリ条約には最重要な原則が3つある。
即ち、
- ①「内国民待遇」(第2条)
- ②「優先権制度」(第4条)
- ③「(各国)特許独立の原則」(第4条―2)
である。
「内国民待遇」とは、産業財産権の国際的な保護に関しては、「外国人がある同盟国に保護を求めた際には、各国共に、その外国人に対して自国民と同一の保護を与え合うようにしよう」という義務を各国に課していた規定である。
「(各国)特許独立の原則」の理念は、日本最高裁における1997年の「BBS事件」判決(真正商品並行輸入に関する事件)においても引用されている。
パリ条約第2条のみで「特許を含む産業財産権の保護は基本的に完遂される」といえるほどの素晴らしい規定である。
しかしながら、この「内国民待遇の原則」に従ったとしても、やはり外国人は、その国の言語を使用して、かつその国の法制度に合わせなければならず、このような「言語障壁」及び「法的情報障壁」のある外国人には、なお、実質的には不利である。そこで、この外国人の不利益を緩和するために「優先権制度」を設けた。自国で出願をした場合には、その出願日から1年間を「優先期間」とし、権利化国において権利化国等の他人が同一の発明に関し権利化手続を行った場合であって、自国出願日を外国において主張できる、という制度である。
しかしながら、パリ条約は「属地主義」を前提として「各国での権利化のためには各国出願が必要」とする「各国別出願」の原則を貫いていることから(上記パリ条約2条)、多数の外国で権利化を希望する場合には、夫々の国へ個別に、権利化国数の出願をする必要がある。
その結果、上記優先権制度を利用したとしても、権利化国毎に、その国の法律に従った出願書類を作成し、その国の特許庁に提出することが出願人にとっては、やはり大きな負担であった。これを解決しようとしたのがPCT(特許協力条約)である。
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