特許審査と審判の関係
審査段階と審判段階
特許制度には審査段階と審判段階がある。「審査での判断を再度審判で審理する」という思想は世界共通である。しかしながら、実際の運用面では、特に、審査で最終拒絶された場合に、審判が果たす役割が微妙に相違している点に留意を要する。
米国の場合には、審査で最終拒絶となった場合、米国弁護士に相談すると、概ね「継続出願」(RCE:Request of Continued Examination)を勧め、余り、審判請求を勧めない。従って、米国の場合には、米国弁護士は、あくまでも審査で権利化すべきで、審判は余り権利化に有効ではない、と判断しているものと思われる。
一方、日本特許制度には「継続出願」は存在しない。それに代わって「分割出願」制度がある。「分割出願」を利用すれば、最終拒絶された場合であっても、さらに、審査段階での権利の追求にチャレンジすることができる。但し、日本の分割出願制度は、あくまでも「発明を分割」するものであり、拒絶された発明をそのままの形で「分割出願」することはできない。また、分割の要件は非常に厳格である。従って、最終拒絶された発明をそのままの形で反論して権利化したい、という場合には審判請求を行うこととなる。
審判は、審査とほぼ同額の料金(特許庁の審査費用及び代理人手数料)が発生することから、多数案件を権利化しなければならない大企業は一般に審判を避ける傾向にあり、重要案件のみを審判請求する場合が多い。一方、中小企業、個人顧客の場合には、当該発明の権利化に会社又は個人の命運がかかっている場合がほとんどであることから、「相当の投資をしても権利化したい」という意向が強く、審査での最終拒絶に対してはほとんどの場合に審判請求(拒絶査定不服判:特許法第121条)を行う。従って、多くの中小企業案件を取り扱っている当所においては多数の審判事件(拒絶査定不服審判)を経験してきているが、その結果、以下の点が明確になった。
審査と審判における権利化のハードルは異なる場合が多い。
簡単にいえば、審査で拒絶されても審判で特許になる場合が非常に多い。この傾向は、特許にとどまらず、意匠、商標案件でも同様である。
即ち、審査では審査官により「審査基準を画一的に適用する審査」が行われ、審判では「審査基準には基づくが個別具体的事案に応じた弾力的運用の審査」が行われる。その結果、私自身の経験では、審査で最終拒絶となった場合でもほとんどが審判で特許になっている。この点は特に、発明の進歩性を理由とする拒絶の場合に顕著である。
また、審判では「審判官面談」が非常に有効に機能する。「面談」は審査でも出願人が希望すれば行える。しかしながら、結果への影響力を考慮した場合には、審判での面談の方が圧倒的に影響力、実効性がある。かつて、審査で3回拒絶された特許案件に関し、審判での面談で、発明者が3人の審判官に対して圧倒的なプレゼンを行うことにより、迅速に特許取得につながったケースがある。従って、日本の特許審査において、審査で最終的に拒絶されても、あきらめず積極的に審判を利用することをお勧めする。
著者
所長弁理士 木村高明
所長弁理士
専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。
製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。
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