<特許取得事例>「革新的被服技術案件」
「審査官の拒絶の意図はどこにあるのか」
本案件は、当所の顧客である服飾学専門の教育機関から依頼された発明案件であり、非常にコンセプチュアルで、斬新な服を自動編み機を使用して作成できる技術に関する発明です。
本件の拒絶のポイントは進歩性違反、記載不備の拒絶理由通知に対する虚接応答として行った補正が新規事項に該当する旨の拒絶理由でした。
審査、審判を通じて圧倒的に多い拒絶理由はやはり「進歩性」ですが、新規事項追加の拒絶由は場合によっては、非常に致命的になりかねないことから、緊張して対応した記憶があります。本件の場合、補正箇所が複数個所に亘り、相互に関連性があったことから、一方を修正すると他所に影響を及ぼす関係にあり、全体としての新規事項にならないように担保しながら請求範囲、明細書を統一的に拒絶克服しなければならず、非常に神経を使う事案でした。
本件の場合には、技術そのものは非常に独創的な技術でありましたから、新規性、進歩性の確保については基本的には心配はしておりませんでした。しかしながら、被服に関する技術であり、図面を使用しつつ革新的な縫製技術を説明していたのですが、その生地を縫う際の縫製手順に関する表現があまり一般的ではなかったことから表現の仕方が非常に難しく、請求範囲、明細書において統一されていなかったため、「記載不備」の拒絶理由が一度、発生し、それに対する補正において、「当初明細書に記載されていない」という部位が発生していたものです。
この場合、文字による表現は非常に微妙ですが、図面は技術を明確に図示しており、記載内容は、文字のように表現により複数に解釈できるということはなく、かつ、当該図面は出願当初の記載事項を構成する書類であることから、補正時には、明細書の文言の修正に迷ったら出願当初図面に基づき明細書の文言を修正することが非常に有効、かつ安全です。
この観点から、拒絶応答補正案では図面の記載及び技術常識を基本として明細書及び請求範囲の記載の各部位を修正して統一し、補正案を作成しました。
但し、この場合、当該表現が完全に図面と符号していると、審査官に判断してもらえるか、否かに関してはなお、不明であったことから、早期に補正案、意見書からなる応答案を作成し、正式な提出前に、予め担当審査官にメール添付で送付して簡易の審査を行ってもらい、それを踏まえて正式な補正書案、意見書案の提出を行うようにしました。
現在では、特許庁も審査官はリモートワークを行っていることから、特許庁を訪問しての面談も受け付けてはおりますが、応答期限との関係で、なかなか審査官の登庁予定と出願人、代理人側の予定が合わない場合も多く、現在は、この「事前に電話連絡し、メールにより事前に補正案、意見書案を送付して審査官に内容を確認していただき、その後電話で回答をもらい、必用に応じて電話で打合せをして、その後、正式に応答書類を提出する」というスタイルを、特許庁は容認しております。これはコロナ感染状況が生んだ「簡易事前審査システム」ともいうべきもので、審査官側も代理人側も非常に便利に利用させていただいております。
また、この運用により、以前は補正案はFAXで担当審査官宛に送付することを要請されておりましたが、現在では担当部署ごとのメールアドレスを事前にお教えいただけることとなり、非常に便利になりました。
さらに、この運用により、担当審査官と電話で会話を行い、かつ、フランクな状況の中で拒絶克服の手法に関し、ある程度までの意見交換をすることができるようになり、「審査官の拒絶の意図はどこにあるのか」を確認しやすくなり、拒絶応答案の作成が容易になっております。
また、さらに、担当審査官と直接に電話で会話できることそのものが、審査官への信頼感につながることとなり、代理人側、出願人側特許庁審査部門に対する良好な意識を持つことができるようになってきている点は、非常によいことである、と考えております。
著者
所長弁理士 木村高明
所長弁理士
専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。
製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。
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