中小企業知財と発明の進歩性3:具体事例
前回の記事では、「裁判所では進歩性の有無のメルクマールを、効果の顕著性に求める傾向にあり、審査では構成の困難性を基礎として判断する傾向にある」旨のお話をしました。
この点で非常に勉強になったのは、私が経験した案件では「ポリカバッグ事件」です。
この事件は、「合皮製バッグの表皮材としてポリカーボネートを使用するアイデア」を特許化した事案です
元々、合皮製バッグの表皮材には、PP、PVCが使用されてきましたが、耐候性が低いため、特に、雨の影響で数年使用すると表皮材が劣化してしまう、という問題がありました。この事件の依頼人は合皮バッグの製造販売業者ですが、この種のクレームが多く、課題となっていました。
この会社は、100年企業であり、社長様の経営意識が非常に高く「お客様のクレームは宝なり」を社是とされており、その結果、知財意識が非常に高い会社でした。
この場合、ポリカーボネートは合成樹脂の中では、剛性が高く耐候性に優れることから、これをバッグ表皮材に使用できないか、というアイデアが提案され、この研究を会社で行いました。
問題は、ポリカは剛性は高いのですが、その分、バッグの表皮材にすると全体が硬くなりゴワゴワしてしまい、使用感が悪いことから、なかなか商品化できませんでしたが、表皮材の裏面側の基材及び、使用するポリカ―ボネット表皮材の厚さに工夫を施すことにより、これを解決したものです。
その結果、軽量でありながら、圧倒的な耐候性を持ち、雨水の中に長時間(数か月)連続して置いても一切表皮材が劣化することもなく、耐候性抜群な合皮製のバッグができあがりました。 これを特許出願したのですが、審査では進歩性欠如を理由とする拒絶理由通知が3回出て、補正書と共に意見書で反論しましたが、結局、拒絶査定が出され審査では特許になりませんでした。この発明は依頼会社にとり社運のかかった主力商品だったので、迷うことなく拒絶査定不服審判を請求しました。この結果は次号に続きます。
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