★プロ弁理士が解説!日本の実用新案制度の紹介−自社のマーケットを守るために−
日本の実用新案制度の紹介 −なぜ、無審査制度である日本の実用新案制度により、自社のマーケットが守れるのか−
前回、日本の実用新案制度の、特に、中小企業への有用性について紹介した。
(該当記事はこちら)
今回は、「なぜ、無審査制度である日本の実用新案制度により、自社のマーケットが守れるか」について紹介する。
日本の実用新案制度は、新規性、進歩性に関する事前審査を行わず登録する無審査制度を1993年から採用している。それ以前は、特許制度と同様に審査制度であったが、登録まで時間がかかる、という批判が産業界からあったため、無審査制度に改正となった。
従って、現状、実用新案登録がされた場合であっても、新規性、進歩性のない場合でも登録にはなる。従って、実用新案登録は「玉石混交」でああって価値のない登録も存在する。
従って、必要な際に、新規性、進歩性等に関する審査を事後的に行う「技術評価制度」を設けている(実用新案法第29条-2)。このような無審査制度の法体制は、日本独自のものではなく、実用指南制度を有する中国、台湾、タイと同様である。
従って、実用新案登録制度は、非常にユーザーフレンドリーな制度である。但し、新規性、進歩性が不明な不安定な権利のままで、そのままむやみに権利行使をされたのでは第三者にとって大変迷惑であることから「技術評価制度」を採用して、第三者の利益との間でのバランスを図っている。
「技術評価」とは、出願人又は権利者が実用新案登録の価値評価を特許庁に申請をするものである。この「技術評価申請」があった場合に、特許庁は当該実用新案に関し、新規性、進歩性及び先願性につき事後的に審査を行う。この場合の審査のハードル(特に、進歩性)は特許の場合と変わらない。従って、実用新案の方が特許よりも審査レベルが低いということはなく、発生した権利に関しても実用新案権の方が特許よりも弱い、ということは本質的にはない。
技術評価書とは、要は、「実用新案の成績表」である。「評価」は点数により示され、1点は「新規性がない」、2点は「新規性はあるが進歩性がない」、3点~5点は「先顔性がない」、6点は「新規性、進歩性があると推定される」である。従って、6点であれば満点であり、特許の場合と同等の効力を有すると特許庁が判断したことになる。なお、「技術評価書」の取得には現状、権利者自ら申請する場合には3ヵ月ほどかかっている。
従って、もし6点の評価が出た場合には、被疑侵害者に対して警告を行い、訴訟を行い損害賠償請求を行うこともできる。実際に、現在、当事務所でも中小企業の顧客の依頼を受けて大企業に対する侵害に基づく損害賠償請求訴訟が進行中である。
なお、注意すべきは、実用新案権に基づく権利行使、警告を行った場合、その後に当該実用新案登録が無効になった場合には、権利行使、警告により与えた損害の賠償責任が生ずることになる(同法29条-3)。従って、実用新案権者はむやみに権利行使ができるわけではない。特に、「評価1」又は「評価2」の場合に被疑侵害者に対し、警告等の権利行使を行えば、上記規定に該当し、損害賠償を行う事態になる可能性は大きいので注意する必要はある。
それでは、これらを前提にした場合、実用新案登録において「6点」でなければ意味のない登録となるのであろうか? 答えは「否」である。ここに実用新案制度の使い方のコツがある。
本来、「評価6」が成立する可能性は非常に低い。これは、特許出願を行った場合、拒絶理由通知が全く発送されず特許になる場合に相当する。現状、日本の特許の審査ではこのような場合は非常に稀である。従って、通常は「評価2」が圧倒的に多い。即ち、「進歩性は疑問である」という場合である。結論から言えば、「評価2」の実用新案登録で十分に権利者及び自社のマーケットを守れるのである。
理由は以下のとおりである。
「評価2」であろうと実用新案登録は成立しているのであるから、権利者は「実用新案登録済み」の表記を商品のタグに付し、また、自社のウェブページ等に掲載して広告することはできる。これは全く適法な行為である。このような場合、第三者が、もし、当該製品又は広告を見て「非常に魅力的なアイデアであるので私も作りたい」と思った場合でも、実用新案権が存在することは「実用新案登録済み」の表記により認識できる。
問題は、その時点で第三者がどのように考えるかであるが、もし、熱心な事業者であれば、費用と時間をかけて、その模倣したいと考えている実用新案登録の価値を知るために「技術評価書」を取得するかもしれない。
そして、もし「技術評価書」により「評価6」であることが判明した場合には、当該製品を模倣することは止めると思われる。問題は、「評価2」の場合であるが、このような場合に、判断に迷い、弁理士に相談した場合には、模倣は行わない可能性が高い。
その理由は、「評価2」とは「進歩性がない」という評価であるが、「進歩性の有無」の判断は非常に微妙な判断であることは弁理士はよく理解している。
一応の判断の基準は、特許庁の審査基準により決まってはいるが、やはり個別案件により実際の判断は異なる。即ち、一般的には、判断主体(担当審査官、審判官、裁判官等)によっても異なる場合があり、審査と審判での判断も異なる場合があり、特許庁と裁判所の判断でも異なる場合がある。即ち、明確に進歩性がある場合、及び明確に進歩性がない場合を除いて、いずれにも判断できる場合も多々ある。外国特許庁における場合も同様であるが、日本においてもこのようなグレーゾーンが進歩性には多い。
「新規性」は客観的、合理的な判断ができる概念であるが、「進歩性」は「新規性」に比して、判断主体の主観的要素(技術観、発明観、産業観、また世界観)が混入する概念であり、その意味で、変動要素の多い、「どのような発明こそを保護すると日本の産業発達に寄与できるのか」という観点が伴う、優れて産業政策的な概念である。従って、「評価2」という判断も特許庁の判断であり、場合によっては裁判所において異なる評価がされる可能性もあり、絶対的な評価ではない。
従って、「評価2」の実用新案も模倣して紛争事件になった場合には、被疑侵害者側は当該実用新案登録の無効を主張することができるが、実用新案無効審判又は訴訟を提起するのには、概略、100万円以上の費用と、結論出るまでの1年以上の時間が必要が必要となる。
模倣者には、実用新案権者が支配するマーケットへの参入に、これだけの費用と時間をかけるか、否か、というリスク判断、費用対効果に基づくビジネス判断が求められることになる。
多くの場合には、ビジネスを行う者の合理的判断としては「回避する」という結論を出す場合が多い、と思われる。少なくとも、私自身の「中小企業支援」を行ってきたこの20年間の経過ではそのようであり、これに反する事態は今のところ起きていない。
従って、実用新案制度は中小企業、個人の事業者の味方なのである。
著者
所長弁理士 木村高明
所長弁理士
専門分野:知財保護による中小企業(SMEs)支援。特に、内外での権利取得、紛争事件解決に長年のキャリア。
製造会社勤務の後、知財業界に転じ弁理士登録(登録番号8902)。小規模事務所、中規模事務所にて大企業の特許権利化にまい進し2002年に独立。2012年に事務所名称を「依頼人に至誠を尽くす」べく「至誠国際特許事務所」に変更。「知財保護による中小企業・個人支援」を事業理念として現在に至る。事務所勤務時には外国業務担当パートナー。日本弁理士会・国際活動センター元副センター長。国際会議への出席多数。
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